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2024年:感情のローラーコースター

  • 執筆者の写真: Asagi Hozumi|穂積浅葱
    Asagi Hozumi|穂積浅葱
  • 2024年12月31日
  • 読了時間: 12分

Recency bias は「近接誤差」と呼ばれるらしいですね。

もしかするとそれのせいなのかも知れませんが、2020年以降は毎年「これが人生最良の年」と思っています。

21年も、22年も、23年も、本当に私は「人生最良の年だった」と思いました。

今年もそうです。

2019年当時の私のウェルビイングのレベルを正確に測って、同じように計測された2020年当時の私のウェルビイングと比較し、他の年についても同じことをすることで今年が本当に人生最良の年だったのかどうかを知ることは、現在利用可能な技術では不可能です。

しかし、今の私が「今年は人生最良とも思えるとても良い年だった」と今言う時、私の2024年は本当に、間違いなく、「人生最良の年」候補なのです――ちょうど、私が「私の人生は絶対に開始されてはならなかった、非常に悪いものだ」と感じる時、私の人生が本当に開始されてはならなかったものであるのと同じように。

だからベネター氏の「全ての人生は悪い」「人生はそれを生きている当人が思うよりも実際にははるかに悪いものなのだ」というような無生殖主義を擁護するための議論に、私は全く正当性を見いだせません。

その「実際」の悪さを、誰も経験していないではありませんか!


ベネター式の評価はともかく、2024年は私にとって……とても良い年だった、と簡単に片づけてしまうのには抵抗があります。

毎日が天国だったとはとても言えません。

多大な苦痛に泣かされた時間もたくさんありましたから。

でもそれ以上に(と言っておきたいです)、自分は恵まれている、自分の幸運が信じられない、と感じた瞬間もたくさんありました。

そのような多大な快楽を、多大な苦痛と一緒に経験した時間もありました。

これもまた recency bias なのかも知れませんが、私という意識がこんなにも濃く存在した(平たく言えば『強い感情の動きがあった』)年はこれまでなかったような気がします。

いや、これは嘘だな。

2021年にはその意味ではさすがに勝てないはず。


色々考えているうちに、今年を「人生最良の年」と評価する気がなくなってしまいました。

とはいえ、大切にしたい思い出ができた年だったことは間違いありません。

たった一つの小さい染みが大きなシーツを丸ごと駄目にしてしまうのと同じように、2024年を人生最良の年にしてくれる(と私が感じられる)たった一つの素晴らしい出来事というのも、挙げろと言われれば挙げられますから。

2021年並みに私が濃く存在した(と思われる)2024年のハイライトを、このブログポストで振り返ってみます。



街頭活動


無生殖協会街頭活動部として、今年は10回の街頭活動を行いました。

本当はひと月1回のペースで年12回実施したかったのですが、やむを得ぬ事情で2回はキャンセルされることになりました。

池袋で6回、渋谷で3回、原宿で1回ですから、場所はだいぶ偏ってしまいましたね。

来年はこの3ヶ所に加えて、新たな実施場所を開拓したいと思っています。


今となっては大昔のことのように感じられますが、今年最初の街頭活動では、非常に攻撃的なネイタリストに数分間にわたって絡まれて嫌な思いをしました。

我々が何を言っても、彼はそれを理性で処理せず感情で反応することしかしないものですから、彼と話した(というか彼に攻撃された)数分間――体感では4分程度だったでしょうか――は時間と労力の無駄でしかありませんでした。

彼がしていたことは要するに、チェスに銃を持ち込んで相手を「降参」に追い込み、それでチェスのゲームに勝ったのだと宣言するようなものでした。


2回目の街頭活動では、前年までの反省を受けて作成された英語パネルを初めて使用しました。

東京で街頭活動をすれば、日本国外から来た観光客と思われる人々の目に必ず触れることになりますから、英語パネルの使用は啓蒙活動の手段として非常に効率の良いものであるように思われたのです。

この街頭活動以降、英語パネルを見て英語で話しかけてくれた人々の例がいくつもありますから、このパネルは間違いなく作る価値があったと思って良いでしょう。



街頭活動にほぼ毎回参加する「イツメン」が私を含めて3名おり、それに時々別の参加者が加わることもあって、今年の街頭活動はたいてい3、4名程度の体制で行われました。

来年は実施場所のレパートリーを増やして、今年よりも幅広い人々にリーチできれば良いと思います。




その他の無生殖協会の活動


無生殖協会には今年、13人が新たに入会しました。

協会が設立された2021年の入会者数が33人(うち10人は設立4日以内に入会した事実上の『初期メン』)、2022年が7人、23年が12人ですから、まあ悪くはないでしょう。

私を含む3者へのインタビューを基に書かれたニュース記事の公開を考えれば、もう少し増えても良かったような気もしますが。

インタビューについては別のブログポストに詳しく書きました。

同じくそのポストに書いた An Antinatalist Handbook の翻訳とその校正は、今年の最も重要なハイライトだったかも知れません。

それがどれほど大切な経験だったかは、それについてのブログポストにきちんと書いておきましたから、それ以上ここで言うべきことはありません。


会員コラムの掲載が始まったことも、個人的にはとても喜んでいます。

今は私と間氏の2名だけが寄稿しているので、来年は3人目の寄稿者が現れると良いと思います。



ウェブサイトの移転とヴィジュアル・アイデンティティーのアップデート


ロゴ自体は変えていませんが、ロゴの背景に使う色を浅葱色に近いティールから、今使っているティール(339999)とブルー(19194d)のグラデーションに変更しました。

当時の私に言わせれば、これは「インターネット上での私の見た目を500倍良いものにし」てくれました。

その新しいヴィジュアル・アイデンティティーを基にデザインしたこのウェブサイトを公開するための作業をようやく完了できたことは、苦痛主義や無生殖主義に関するブログポストを書いて公開することを未来の私に促すという方法で私の存在の価値を高めてくれたように思います。



素敵な映像作品との遭遇


Breaking BadBetter Call Saul を、2024年にもなって初めて観ることになりました。

遅いですよね。

遅いんですよ。

リアルタイムで追っていた人々はさぞかし素晴らしい経験を周りの人々と共有できたことだろうと思います。

そのような幸運に恵まれなかった私さえも、こんなに素晴らしい経験をすることができたのですから。


日本で今年公開された Oppenheimer は、私は少しも躊躇せずに、私が観たことのある映画で最良のものだと断言してしまうことができます。

ノーラン氏は本当に、映画というメディアの力をどこまでも上手に引き出しますね。

モータースポーツで例えるならばフェルナンド・アロンソでしょうか。



r/antinatalism のモデレーター辞任


私の2024年のウェルビイングがある程度良好な水準にあったことの要因として大きいのは、5月に r/AN のモデレーターを辞めたことでしょう。

Mod チームの一員として過ごした時間の全てが地獄だったとは言いません。

むしろ素敵な人々に出会って友好関係を深めることができて、本当に素敵な時間だったと思います。

しかし、その素敵な時間に見合うか見合わないかをはっきり見極められない程度の苦痛を被ったのもまた、否定のしようがない事実です。


5月当時は、r/AN のモデレーターであることの害が利益を上回り始めていました。

それに加えて、mod チームが当時施行していた新ルールから、私は今の mod チームならば私のインプットなしでも r/AN を概ねポジティブな方向に向かわせることができそうだという現実的な期待を持つことができていました。

そうして私はようやく、私に多大な利益とそれを少し上回る多大な害をもたらしてきた環境から離れることを自分に許すことができました。



箱根ターンパイクを2回訪問



1回目は「オープンカーに乗りたい、できればMTで」という目的を持って事前にある程度の計画を立て、レンタカーのS660でドライブに行きました。

箱根ターンパイクはクルマ好きになった時からずっと名前だけ聞いていて、行ったことがなかったので、この素晴らしいクルマで初訪問を果たすことができたのは大変嬉しいことです。



2回目は本当に奇妙で面白かったですし、後述する岡山行きに並んで、実は今年最も楽しい旅行でした。

何しろ埼玉県のレストランへ出かけた時には高校時代からの友人たちとの会食のつもりだったのに、4時間後にはハスラーに乗って箱根に向かっていたのですから。




美しいF1シーズン:オスカー・ピアストリの初優勝


オスカーがチームの戦略に screw over された点を除けば fast-paced で feel-good なレースだったブリティッシュGP、かなり胸糞悪い状況とはいえオスカーが初優勝を果たしたハンガリアンGP、そしてオスカーがまるで複数回タイトルを獲得しているドライバーのような素晴らしいパフォーマンスでファンを魅了したアゼルバイジャンGPなど、今年の Formula 1 には今後何十年も覚えていることになりそうな重要なレースがたくさんありました。

開幕当初はまたどうせマックスが勝ちまくって簡単にタイトルを確定してしまう2023年の繰り返しだと思われましたけれども、終わってみればここ10年で一番混沌としたエキサイティングなシーズンだったのではないでしょうか。

24人のドライバーのうち7人が優勝するなど、開幕戦終了時点では誰も信じなかったことでしょう。

そもそもドライバーが20人ではなく24人いる時点でもう普通のシーズンではありませんし。


もはやレッドブルは最速ではなく、マクラーレン、フェラーリ、そして時折メルセデスとも、自らのポテンシャルを出し尽くして戦わなければ大量失点する――いや、すでに大量失点した――立場です。

同じレギュでの最終年となる来季が待ちきれません!



岡山旅行:ヴィヴァルディ大好き!


岡山県の「妖精の森ガラス美術館」の存在を知ってからずっと訪問したいと思っていたので、ちょうど旅行の時間がとりやすかった8月、サンライズでの夜行列車初体験も兼ねて行くことにしました――が、残念なことにサンライズは「車両やりくり」という理由で運休になったので、0日目は新幹線で静岡まで行ってそこで泊まることになりました。


1日目早朝の静岡駅前
1日目早朝の静岡駅前

1日目は静岡から岡山へ始発の新幹線で移動。

予定より2時間遅れて岡山に着いたので、フェリーで直島の地中美術館に行くことは諦めざるを得ませんでした。

でもその代わり、東山魁夷せとうち美術館に向かう途中に立ち寄った与島PAに日没の時間帯に再訪できるようスケジュールを変更できたので結果オーライです。


与島PAでのフィットちゃん
与島PAでのフィットちゃん

東山魁夷せとうち美術館で一番気に入ったのは「残照」です。

是非ともこれのポストカードをコレクションに加えたいと思ったのですが、どういうわけか売られていませんでした。

残念。



与島PAで素敵な時間を過ごした後は、この日と次の日の夜を過ごすことになる快活CLUB岡山倉敷店に向かいました。


2日目の午前中は、この旅行のメインディッシュである妖精の森ガラス美術館を訪問しました。

決して大きな施設ではありませんが、紫外線を当てると緑色に光る不思議なガラス作品をたくさん楽しめる素敵な美術館でした。

工房でガラス作品を実際に制作している人々の様子を上から見ることのできる「ガラス工房見学スペース」もあり、ゆったり過ごすことができました。



そこから広島市現代美術館への道中に限らず、この旅行全体で私を特に楽しませてくれたのは、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲のうちの2曲、四季の「夏」第3楽章と「冬」第1楽章です。

この旅行以来、毎日必ず聴きたくなる曲のトップ4に入っています。



しかし、自動車での移動が多い旅行の2日目――事実上3日目と言うべきでしょうか――に、3時間かけて岡山から広島に向かうというスケジュールには無理がありました。

移動中に休憩が必要になったことで、1時間半の滞在を予定していた広島市現代美術館には結局50分しかいられなかったので、広島は別の機会に広島だけで完結させるのが良いでしょう。



3日目は大原美術館を訪問し、期待以上に楽しむことができました。

児島虎次郎の「春の光」がとても素敵だったので、これのポストカードを所望したのですが、東山魁夷の「残照」と同様、こちらも扱われていませんでした。

残念。


その日はフィットちゃんを返却したら、快活CLUB岡山駅東口店で翌朝までゆっくり休みました。


さらばフィットちゃん
さらばフィットちゃん

帰りは大変でした。

大変な混雑の中、新幹線 → サンダーバード → 新幹線、と乗り継いで、昨年の旅行で大変素晴らしい時間を過ごした金沢や富山を経由し(富山市ガラス美術館が車窓から見えました!)、東京駅の T’s たんたんでの食事も入れると全部で12時間ほどかけて帰宅したことになります。



美術館の訪問


前述の旅行を含めると、今年は美術館(または美術展の会場)を訪問する機会を13回作っていました。

一人で行ったものがほとんどですが、2回だけは友人との2名体制でした。


  1. 東京富士美術館(源氏物語 THE TALE OF GENJI ─「源氏文化」の拡がり 絵画、工芸から現代アートまで─

  2. 麻布台ヒルズギャラリー(カルダー:そよぐ、感じる、日本

  3. 国立近代美術館(TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション

  4. 香川県立東山魁夷せとうち美術館

  5. 妖精の森ガラス美術館

  6. 広島市現代美術館

  7. 大原美術館

  8. 山種美術館(【特別展】没後25年記念 東山魁夷と日本の夏

  9. 日本橋三越本店(第71回日本伝統工芸展

  10. 静嘉堂@丸の内(平安文学、いとをかし ―国宝「源氏物語関屋澪標図屏風」と王朝美のあゆみ

  11. 佐野市立吉澤記念美術館(源氏物語とみやび

  12. 川風のガーデン(River / Blue 山口幸士

  13. 旧近衛師団司令部庁舎(わざの美——工芸が織りなす装飾の世界


こうして並べてみると、思ったよりたくさん行ってるなぁと驚きます。

1年が365日あると、まあこういうものなんですかね。

たくさん行けばいいというものではないので、これについては来年に向けて目標のようなものを立てるつもりはありません。

今までと同じように、山本茜氏の作品展示がある展覧会を中心に訪問しようと思います。

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